「ビーズと衣装 – 織りあう手仕事の美学②」by 荒木晴美♪
衣装づくりが教えてくれた素材の生き方
バレエの衣装制作に携わるようになってから、私は素材と向き合う時間を多く持つようになりました。
舞台衣装は、美しく見えることはもちろんですが、それ以上に、舞台の上でどう見えるかという視点がとても重要になります。
舞台の客席からは、細かな装飾のひとつひとつまでは見ることができません。けれど、それでも遠くから見たときに、その衣装が持つ空気や印象は確かに伝わります。
色の重なりや素材の光り方、布の動き方によって、舞台上の人物の存在感や世界観が大きく変わるのです。そうした経験を重ねる中で、私は少しずつ「素材にはそれぞれの生き方がある」ということを感じるようになりました。
同じ布でも、使い方によって表情はまったく変わりますし、光の受け方ひとつで印象が大きく変わります。素材をどう扱うかによって、その魅力が生きることもあれば、逆に埋もれてしまうこともあります。
素材と出会う場所

その頃、私はよく東京の浅草橋へ通っていました。
現在では浅草橋は「ビーズの街」として知られ、誰でも気軽に材料を購入できる場所になっていますが、私が学生だった頃や就職したばかりの頃は、今とは少し雰囲気が違っていました。
当時の問屋では、教授の紹介状や学生証、社員証を提示して入店することもあり、誰でも自由に買い物ができるわけではありませんでした。
お店の多くは今のような明るい店舗ではなく、引き戸をガラガラと開けて入るような、昔ながらの問屋が並んでいました。
少し緊張しながら扉を開け、棚に並ぶ材料を見せていただく。そんな時間は、私にとって小さな冒険のようでもありました。
また、寿町の生地問屋にもよく足を運びました。
そこにはさまざまな布が並び、それぞれに異なる質感や光沢、重さがあります。
その中から舞台に合う素材を探し、実際に手に取って確かめながら選んでいく作業は、とても楽しく、同時に多くのことを学ばせてくれる時間でした。
モードの中の素材
当時は、いわゆるDCブランドの時代でもあり、ファッションが文化として大きな熱を持っていた頃でもありました。雑誌を開けば、新しい感性や世界観が次々と紹介され、ファッションの世界がとても自由で魅力的に感じられました。
私が特に憧れていたのが、ピンクハウスのデザイナー、金子功さんでした。
レースやフリル、花柄を重ねた独特のロマンティックな世界観は、見ているだけで物語の中に入り込んだような気持ちになります。
2022年に招待いただいた「ピンクハウス50周年記念展」のフライヤー


出典 : ピンクハウス
その柔らかく豊かな表現に、私は強く惹かれていました。
夫の仕事の関係でご縁があり、コレクションを拝見する機会にも恵まれていました。
ランウェイで見る服は、日常の衣服とは少し違う、「表現」としての力を持っていました。
音楽や光の中で動く衣装を見ながら、私は衣服というものが持つ表現の広がりに深く心を動かされたのを覚えています。
素材の生きる場所

舞台衣装の制作現場、問屋街の素材、そしてファッションの世界。さまざまな場所で素材に触れる経験を重ねるうちに、私は少しずつ「装飾」というものの持つ意味を考えるようになりました。
布やビーズ、レースや糸。
それぞれの素材は、ただそこにあるだけでは静かな存在です。
しかし、人の手によって組み合わされることで、そこに新しい表情が生まれます。
素材には、それぞれに似合う形や光り方があります。
それを無理に変えるのではなく、その素材がもっとも美しく見える場所を見つけてあげること。
それが、制作の中で私が大切にしてきたことのひとつでした。
ひと粒へとつながる感覚

衣装づくりを通して学んだこうした感覚は、その後私がビーズと向き合うようになってからも、大切な基盤になっています。
小さな一粒のビーズにも、それぞれに異なる輝きがあります。
ビーズを選ぶとき、私は今でも光にかざしてみることがあります。
その光をどのように生かすのか。
それは、衣装制作の頃に身についた習慣なのかもしれません。
素材とともにあるということ

素材の個性を大切にするという感覚は、形を変えながら今の制作にも静かにつながっています。浅草橋の小さなお店で材料を選んでいたあの時間が、今の私の制作の原点になっているのかもしれません。
そんな中で、私は次第に「小さな素材そのもの」に惹かれていきました。
それが、ビーズとの本格的な出会いへとつながっていきます。
次回は、ビーズと出会い、atelier embellirが生まれるまでの歩みをお話しします。
荒木晴美の情報はこちら
|
荒木晴美のご紹介ページへ |
|
荒木晴美が作成したキットのご紹介はこちらから |

